2007/12/2

労災(過労死)にあたるか~トヨタ自動車

Filed under: (2)従業員・株主コンプライアンス — 家坂圭一 @ 16:19

■ニュースの概要

トヨタ自動車の工場で働いていた方が、勤務中に倒れ、致死性不整脈で亡くなったというケースに関するものです。

ご遺族は、この方の死亡が、業務上の死亡(過労死)にあたるとして、遺族補償年金の支給を求めたのですが、国はこれを認めませんでした。
そこで、年金の支給を求めて提起した訴訟が今回のものです。
名古屋地方裁判所は、
「豊田労働基準監督署の遺族補償年金不支給決定を取り消す」
と判決しました。

●参照記事

  1. asahi.com:トヨタに残業代の重荷 カイゼン活動の社員「過労死」 - ビジネス
  2. トヨタ社員の過労死認める 年金の不支給取り消し、名古屋地裁 - MSN産経ニュース
  3. 東京新聞:トヨタ社員 過労死認定 名古屋地裁判決 “改善活動”は業務:社会(TOKYO Web)
  4. livedoor ニュース - トヨタで死んだ 30歳過労死社員の妻は語る(1) 生体リズム壊す変則勤務体制

「トヨタが…」、「カイゼンも業務。」など、トヨタに関するニュースとして捉える報道も多いようですが、
今回の判決は、直接にはトヨタ自動車が絡んだものではありません。
あくまで、「国に対して遺族補償年金の支給を求める」という訴訟なのです。
したがって、原告はご遺族、被告は国、ということになります。

■論点(1)「業務上の死亡」にあたるか

遺族補償年金の支給を受けるためには、その死が「業務上の死亡」であることが必要です。
労働者災害補償保険法(労災保険法)第7条によれば、保険給付の対象は「業務上の死亡」に限られているからです。
職場で、勤務中に亡くなったとしても、それが「業務」を原因とするものでなければ、「業務上の死亡」ではなく、年金支給の対象にもなりません。
当初の労働基準監督署は、「『業務上の死亡』にはあたらない」と判断し、年金を支給しない(不支給)という決定を下しました。

  1. サークル活動などは業務外の活動にあたらないから、
  2. 死亡直前の1か月の残業時間は約45時間に過ぎず、
  3. 業務を原因とする死とはいえない。
  4. したがって、遺族補償年金の対象とはならない。

と考えたためです。

これに対しご遺族の方では、

  1. サークル活動なども業務にあたるため、
  2. 直前1か月の残業時間は約145時間にも上り、
  3. この残業を原因として死亡した。
  4. したがって、遺族補償年金の対象となる。

と主張しました。

争点 原告(遺族) 被告(国) 判決(名古屋地裁)
QCサークル活動など 業務にあたる 業務外の活動 事業者の支配下による業務
直前1か月の残業時間 144時間35分 約45時間 106時間45分
死亡の原因 業務による過労 業務とは無関係 業務による過労
遺族補償年金 支給すべし 不支給決定 不支給決定を取消
(=支給せよ)

裁判所は残業時間の点については原告・被告のどちらでもない時間数(106時間45分)を認定しましたが、その他の点については基本的に原告(遺族)の立場に立ち、したがって、「業務上の死亡」であるとして、「遺族補償年金の不支給決定を取り消す」と判決しました。

■論点(2)「業務と発症・死亡」との関連

『業務上の死亡』に該当するかどうか」の判定に関しては、厚生労働省の示す「脳・心臓疾患の認定基準」が大きな影響を及ぼしているものと考えられます。

この基準は以下のようなものです。

  1. 発症(死亡)前6か月間の残業(時間外労働)が45時間を超えなければ、業務と発症(死亡)の関連性は弱く、
  2. 45時間を超えて長くなるほど、関連性は徐々に強まる。
  3. 発症(死亡)前1か月間の残業が100時間を超えれば、関連性は強く、
  4. また、2~6か月の残業が80時間を超える場合にも関連性が強い。

ややこしいので図にまとめてみると、以下のようになります。

過労死の判定基準

この基準と、原告・被告の主張を照らし合わせてみると、残業時間の認定が今回の訴訟の大きなテーマだったことがよく分かります。

(その前提として、「サークル活動を業務と認めるか」という論点があったわけです。)

  残業時間 業務と死の関連性
原告(遺族) 約45時間 弱い
被告(国) 約145時間 強い

■ついでに勉強

今回ニュースとして取り上げられたのは、名古屋地方裁判所の判決です。

被告(国)の側が控訴すれば、さらに、高等裁判所→最高裁判所と訴訟は続いていくことになります。

逆に、今回の訴訟以前のできごとを見てみると、労災認定のプロセスが非常に複雑であることが分かります。

訴訟を提起するまでに、行政不服申立てというプロセスを2回も踏まなければいけないルールになっているのです。

  1. まず、労働基準監督署長に対して、年金の支給を申請します。
  2. しかし、支給しない(不支給)という決定が降りてしまいました。
  3. この決定に対して不服(不満や文句)がある場合には、労働者災害補償保険審査官という行政庁に対して審査請求(不支給決定の見直し)を求めなければなりません。(労働者災害補償保険審査官は、都道府県ごとに設置される労働局というところにいます。)
  4. しかし、労働者災害補償保険審査官は、この不服を認めてくれません(「棄却する」といいます)。
  5. この場合には、労働保険審査会という行政庁に再審査請求をしなければなりません(労災保険法38条)。(労働保険審査会は厚生労働省に置かれています。)
  6. しかし、再審査請求でも主張は認められませんでした。
  7. このような場合に限って、取消訴訟を始めることができるのです(労災保険法40条)

ややこしい話なので、ここでも図に頼りましょう。

行政不服申立てと行政訴訟

これほど複雑なプロセスがあって、さらに控訴(高等裁判所)→上告(最高裁判所)と進む可能性があるわけです。
労災認定とはなんと複雑な制度なのでしょう。

●関連リンク

愛知労働局
厚生労働省:労働保険審査会

■他のブログでは

  1. 酒井徹の日々改善 : 名古屋地裁:トヨタ社員の過労死認定
  2. ふくろうの城 過労死問題で名古屋地裁がトヨタ、労組、労基署を断罪

■関連テキスト項目

現代企業経営2『従業員・株主に関するコンプライアンス』
No.04「労働災害と過労死」
テキスト2-04

■関連する法令

●脳・心臓疾患の認定基準

(1) 発症前1か月間ないし6か月間にわたって、1か月当たりおおむね45時間を超える時間外労働が認められない場合は、業務と発症との関連性が弱いが、おおむね45時間を超えて時間外労働時間が長くなるほど、業務と発症との関連性が徐々に強まると評価できること

(2) 発症前1か月間におおむね100時間または発症前2か月間ないし6か月間にわたって、1か月当たりおおむね80時間を超える時間外労働が認められる場合は、業務と発症との関連性が強いと評価できること
を踏まえて判断すること。

■脳・心臓疾患の認定基準の改正について(厚生労働省)

●労働者災害補償保険法

第7条

この法律による保険給付は、次に掲げる保険給付とする。

  1. 労働者の業務上の負傷、疾病、障害又は死亡(以下「業務災害」という。)に関する保険給付
  2. 労働者の通勤による負傷、疾病、障害又は死亡(以下「通勤災害」という。)に関する保険給付
  3. 2次健康診断等給付

第38条
保険給付に関する決定に不服のある者は、労働者災害補償保険審査官に対して審査請求をし、その決定に不服のある者は、労働保険審査会に対して再審査請求をすることができる。

第40条
第38条第1項に規定する処分の取消しの訴えは、当該処分についての再審査請求に対する労働保険審査会の裁決を経た後でなければ、提起することができない。

■他の方のブログ

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[雑感]トヨタに残業代の重荷 カイゼン活動の社員「過労死」 ni
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トヨタ社員の過労死確定へ 国、控訴断念
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トヨタ「改善活動」で過労死?
トヨタ自動車の堤工場(愛知県豊田市)に勤めていた内野健一さん(当時30)が2002年に急死したのは過重な労働が原因で、労災を認めず、療養補償給付金、遺族補償年金などを不支給とした処分は違法だとして、妻の博子さん(37)=同県安城市=が、 …

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トヨタ自動車過労死訴訟、遺族補償年金不支給決定取消。
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トヨタ内野裁判全面勝利
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トヨタの闇 渡邉 正裕/林 克明 (著)
その労働現場は「自動車絶望工場」の時代を引き継ぎ、社員が工場内で若くして過労死しても労災すら認められず、正当な労組活動すら制限されるほど“思想統制”は行き届く。既存メディアがタブー視し…

トヨタ自動車過労死訴訟判決、原告が勝訴 名古屋地裁
11月30日の朝日新聞によると、 『トヨタ自動車の堤工場(愛知県豊田市)に勤めていた内野健一さん(当時30)が02年に急死したのは過重な労働が原因で、労災を認めず、療養補償給付金、遺族補償年金などを不支給とした処分は違法だとして、妻の博子 …

トヨタ元社員は「過労死」、遺族側勝訴 名古屋地裁
トヨタ元社員は「過労死」、遺族側勝訴 名古屋地裁2007年12月01日00時19分 トヨタ自動車の堤工場(愛知県豊田市)に勤めていた内野健一さん(当時30)が02年に急死したのは過重な労働が原因で、労災を認めず、療養補償給付金、遺族補償年金などを不 …

契約14人 正社員採用 青年たち 雇い止め打ち破る 光洋シーリング
先日のトヨタの内野過労死裁判に続き、画期的な勝利である。光洋シーリングテクノは、トヨタ系の企業。2兆円の利益を生む、世界のトヨタの「闇」がまたしても糺されたことになる。 契約14人 正社員採用 青年たち 雇い止め打ち破る 光洋 …

勇気あるたたかいが、社会を変える
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人は何時間働くと過労死するのか?
先週、asahi.com:トヨタに残業代の重荷 カイゼン活動の社員「過労死」 - ビジネス という悲しいニュースがありました。 トヨタ自動車に勤務していた内野健一さんの急死を労災と認定した名古屋地裁の30日の判決は、トヨタの躍進を支える「創意くふう …

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古庵の書斎 96
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過労死
「映像’07 夫はなぜ、死んだのかー過労死認定の厚い壁ー」 ***** トヨタ自動車の工場で働いていた内野健一さんは、5年前30歳の時深夜の残業中に突然倒れ、死亡した。妻の博子さんは労災認定を求めたが、労働基準監督署は長時間労働はなかった、 …

過労自殺の労災:中部電力
(『事件番号「平成15(行ウ)18」名古屋地裁判決』) 厚労省の主張との違いは【過労自殺の労災:トヨタ-3】で図を使って解説した通りである。トヨタのケースでは名古屋高裁で判断指針が認められたと判断して厚労省は上告しなかった(参照)。 …

外電はストレートだね。
世界一トヨタの足元に転がる過労死社員の骸. 日本で乗っ取り:敵対的…なのかよ.

asahi.com:トヨタ系企業が労災隠し 偽装請負が背景に - 社会
トヨタ系、きょうも偽装請負、暗い部分はみなアウトソーシング分離だ。残りは国際優良となる。 きょうもyoutube.

コメント (2) »

  1. 名古屋地裁:トヨタ社員の過労死認定…

    ――30歳EX(班長)、夜勤残業中に心不全で死亡――

    ■死亡前1ヶ月、「『確実なところで』106時間45分残業」
    トヨタ自動車堤工場に勤めていた内野健一さん(当 (more…)

    トラックバック by 酒井徹の日々改善 — 2007/12/6 @ 16:48

  2. 既存メディアが伝えない“トヨタの闇”…

    トヨタの闇作者: 渡邉 正裕/林 克明出版社/メーカー: ビジネス社発売日: 2007/11/07メディア: 単行本

    本屋でこの本を立ち読みして、正直恐ろしさ (more…)

    トラックバック by naitou-souの「So-net的」日常 — 2008/1/17 @ 0:00

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