■ニュースの概要
マクドナルドの現職店長が、会社に対して残業代と慰謝料の支払を求めた訴訟において、東京地裁は会社に残業代の支払を命じました(1月28日)。
店長が残業代の支払対象外となる「管理監督者」に当たるかどうかが主要な争点でしたが、裁判所はこの点を否定。店長は管理監督者ではないため、時間外労働に対しては残業代を支払う必要があるとしました。
会社側は翌日控訴しています。
【判決要旨はこちらで】
夜明け前の独り言 水口洋介: 日本マクドナルド店長残業代請求事件判決
■時間外労働に関する労働基準法の仕組み
1.労働時間の原則
労働時間に関しては、1日8時間以内で1週間に40時間以内でなければならないと定められています(労働基準法31条)。
2.例外としての残業・残業代
使用者が労働者にこの時間を超えて労働することを求めるのであれば、労働組合(組合がなければ労働者の過半数を代表する者)と書面で協定をしなければなりません(同法36条。いわゆる三六協定)。
この場合には、使用者は労働者に対して割増賃金を支払わなければなりません(同法37条)。割増率は2割5分(休日労働については3割5分)とされています。
3.さらに例外が管理監督者
以上の労働時間や休憩・休日に関するルールが適用されない労働者が例外的に存在します(同法41条)。
その一つが今回問題になっている「管理監督者」です。
■今回のケースでは
1.問題の所在
マクドナルドの店長が「管理監督者」にあたるとすれば、会社は残業代を支払う必要がありません。しかし、「管理監督者」にあたらないとすれば、残業代を支払う義務がないことになります。
※実際には「『管理監督者』にあたらない」として残業代を支払ってこなかったため、今回の訴訟が始まったわけです。
2.「管理監督者」とはどういう労働者か
問題は、どういう場合に「管理監督者」といえるか、ということです。
この点に関しては労働省(現:厚生労働省)が「解釈例規」を定めています。
管理監督者の範囲についての解釈例規
| |
内容 |
| 基準 |
- 労務管理について経営者と一体的な立場にある者の意味
- 名称にとらわれず、実態に即して判断すべき
|
| (1)原則 |
- 労働基準法の労働条件は最低基準
- 枠を超えた労働には割増賃金を支払うのが基本原則
- 職制上の役付者すべてが管理監督者ではない
|
| (2)適用除外の趣旨 |
- 規制の枠を超えての労働が要請される重要な職務と責任を有し、現実の勤務形態も規制になじまない者だけが管理監督者
- 管理監督者の範囲はその範囲に限定しなければならない
|
| (3)実態に基づく判断 |
- 職位・資格で形式的に判断できない。
- 職務内容、責任・権限・勤務態様に着目して判断。
|
| (4)待遇に対する留意 |
- 賃金等の待遇面も判断基準となる。
|
| (5)スタッフ職の取扱い |
略 |
3.今回の判決では
今回の判決もこの「解釈例規」の基準をベースにしているように思われます。
具体的には、以下の3点につき、「『管理監督者』のものといえるか」を判断しています。
- 店長の権限
- 店長の勤務形態
- 店長の処遇(待遇)
結論を簡単にまとめれば、
「職務や権限が自分の店舗内の事項に限られ、経営者と一体的といえるような会社全体に関する重要なものではない。また、自分の労働時間に関する裁量もない」
として、管理監督者にはあたらないと判断しています。
【判決要旨はこちらで】
夜明け前の独り言 水口洋介: 日本マクドナルド店長残業代請求事件判決
実際の判決文を見てみると、様々な観点が提示されています。
「肯定的な事情」が、多分、被告(会社側)の主張だったのでしょう。
判決は「肯定的な事情」を取り上げつつ、それよりも「否定的な事情」の方が大きいとして結論を導いています。
色々な事情があって複雑なので、表にまとめてみました。
店長は管理監督者にあたるか?
| |
肯定的な事情 |
否定的な事情 |
| 権限 |
- クルーの採用・時給額の決定
- スウィングマネージャーへの昇格決定
- クルーやスウィングマネージャーの人事考課・昇給決定
- 会社を代表して店舗従業員と時間外労働に関する協定を締結
- 勤務シフトの決定
- 次年度の損益計画の作成・販促活動の実施に一定の裁量権
- 店舗の支出について一定の決裁権
- 店長会議・店長コンベンションに参加
|
- 社員の採用権限がない
- 人事考課は最終的なものではない
- 店舗の営業時間は本社が決定
- メニューや価格、仕入先は本社が決定
- 店長会議等では、営業方針・戦略の情報提供、店舗運営に関する意見交換が行われるだけで企業の経営方針決定には関与していない。
|
| 勤務形態 |
- 自身の勤務シフトを決定
- 自身のスケジュールを決定
- 早退・遅刻に関し上司の許可は不要
|
自らシフトマネージャーとして勤務するなどにより法定外の長時間労働を余儀なくされている。 |
| 処遇 |
店長の平均年収は約707万円、ファーストアシスタントマネージャーの平均は約591万円と差がある。 |
C評価の店長は約579万円、B評価の店長は約635万円に過ぎず、ファーストアシスタントマネージャーより低額だったり、若干高いに過ぎない。 |
■関連テキスト項目
テキスト第2巻『従業員・株主に関するコンプライアンス』
No.03「労働時間とサービス残業」

■関連する法令
労働基準法
第32条(労働時間)
1 使用者は、労働者に、休憩時間を除き一週間について40時間を超えて、労働させてはならない。
2 使用者は、一週間の各日については、労働者に、休憩時間を除き一日について8時間を超えて、労働させてはならない。
第36条(時間外及び休日の労働)
1 使用者は、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定をし、これを行政官庁に届け出た場合においては、・・・労働時間・・・又は前条の休日・・・に関する規定にかかわらず、その協定で定めるところによつて労働時間を延長し、又は休日に労働させることができる。・・・
(2項以下略)
第37条(時間外、休日及び深夜の割増賃金)
1 使用者が、・・・前条第1項の規定により労働時間を延長し、又は休日に労働させた場合においては、その時間又はその日の労働については、通常の労働時間又は労働日の賃金の計算額の2割5分以上5割以下の範囲内でそれぞれ政令で定める率以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。
(2項以下略)
第41条(労働時間等に関する規定の適用除外)
この章、第6章及び第6章の2で定める労働時間、休憩及び休日に関する規定は、次の各号の一に該当する労働者については適用しない。
一 別表第一第6号(林業を除く。)又は第7号に掲げる事業に従事する者
二 事業の種類にかかわらず監督若しくは管理の地位にある者又は機密の事務を取り扱う者
三 監視又は断続的労働に従事する者で、使用者が行政官庁の許可を受けたもの
管理監督者の範囲についての解釈例規(昭和22年9月13日付け発基17号、昭和63年3月14日付け基発150号)
[監督又は管理の地位にある者の範囲]
法第41条第2号に定める「監督若しくは管理の地位にある者」とは、一般的には、部長、工場長等労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にある者の意であり、名称にとらわれず、実態に即して判断すべきものである。具体的な判断にあたつては、下記の考え方によられたい。
記
(1)原則
法に規定する労働時間、休憩、休日等の労働条件は、最低基準を定めたものであるから、この規制の枠を超えて労働させる場合には、法所定の割増賃金を支払うべきことは、すべての労働者に共通する基本原則であり、企業が人事管理上あるいは営業政策上の必要等から任命する職制上の役付者であればすべてが管理監督者として例外的取扱いが認められるものではないこと。
(2)適用除外の趣旨
これらの職制上の役付者のうち、労働時間、休憩、休日等に関する規制の枠を超えて活動することが要請されざるを得ない、重要な職務と責任を有し、現実の勤務態様も、労働時間等の規制になじまないような立場にある者に限つて管理監督者として法第41条による適用の除外が認められる趣旨であること。従つて、その範囲はその限りに、限定しなければならないものであること。
(3)実態に基づく判断
一般に、企業においては、職務の内容と権限等に応じた地位(以下「職位」という。)と、経験、能力等に基づく格付(以下「資格」という。)とによつて人事管理が行われている場合があるが、管理監督者の範囲を決めるに当たつては、かかる資格及び職位の名称にとらわれることなく、職務内容、責任と権限、勤務態様に着目する必要があること。
(4)待遇に対する留意
管理監督者であるかの判定に当たつては、上記のほか、賃金等の待遇面についても無視し得ないものであること。この場合、定期給与である基本給、役付手当等において、その地位にふさわしい待遇がなされているか否か、ボーナス等の一時金の支給率、その算定基礎賃金等についても役付者以外の一般労働者に比し優遇措置が講じられているか否か等について留意する必要があること。なお、一般労働者に比べ優遇措置が講じられているからといつて、実態のない役付者が管理監督者に含まれるものではないこと。
(5)スタッフ職の取扱い
法制定当時には、あまり見られなかつたいわゆるスタッフ職が、本社の企画、調査等の部門に多く配置されており、これらスタッフの企業内における処遇の程度によつては、管理監督者と同様に取扱い、法の規制外においても、これらの者の地位からして特に労働者の保護に欠けるおそれがないと考えられ、かつ、法が監督者のほかに、管理者も含めていることに着目して、一定の範囲の者については、同法第41条第2号該当者に含めて取扱うことが妥当であると考えられること。
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労働基準法の観点からの内容、大変参考となりました。
これからもブログを家坂様のブログを時々拝見させて頂きます。
よろしく
コメント by 八木芳昭 — 2008/3/10 @ 13:02
ブログへのコメント、ありがとうございました。
また、大変勉強になりました。
自分が関わってきた、或いは興味がある議題だと、ものすごく理解し易いですね。
コメント by カトサン — 2008/3/15 @ 16:00