弁護士法に関するコンプライアンス-スルガコーポレーションのケース
■ニュースの概要
東証2部上場の不動産会社スルガコーポレーション が千代田区麹町にあった秀和紀尾井町TBRビル(Googleマップ)の立ち退き交渉にあたり、光誉実業なる会社に交渉を依頼。
スルガ社から所有権の譲渡を受けたとして、光誉実業は所有者の立場で立退き交渉を行ったが、この譲渡は立退き交渉を依頼するための仮装行為であり、実態を伴うものではなかった。
したがって、光誉実業の行為は非弁護士による法律事務に該当し、弁護士法72条に違反する。
このような論理で、警視庁組織犯罪対策4課は光誉実業の社長らを逮捕。
光誉実業は指定暴力団と関係が深いとされ、スルガ社から光誉実業に支払われた報酬の一部が指定暴力団に流れたのではないか、と疑われている。
■非弁護士による法律事務の禁止
1.弁護士法72条の趣旨
弁護士法72条は以下のように規定しています。
第72条(非弁護士の法律事務の取扱い等の禁止)
弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、異議申立て、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。ただし、この法律又は他の法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。
細かい話はあとでやりますが、まずは要約してみると、以下のようになるでしょう。
弁護士でない人が、報酬を得る目的で、法律事務を取り扱うことを業としてはいけない。
では、なぜこのような行為が禁止されるのでしょうか。
その点について説明している最高裁判例があります。
同条制定の趣旨について考えると、弁護士は、基本的人権の擁護と社会正義の実現を使命とし、ひろく法律事務を行なうことをその職務とするものであつて、そのために弁護士法には厳格な資格要件が設けられ、かつ、その職務の誠実適正な遂行のため必要な規律に服すべきものとされるなど、諸般の措置が講ぜられているのであるが、世上には、このような資格もなく、なんらの規律にも服しない者が、みずからの利益のため、みだりに他人の法律事件に介入することを業とするような例もないではなく、これを放置するときは、当事者その他の関係人らの利益をそこね、法律生活の公正かつ円滑ないとなみを妨げ、ひいては法律秩序を害することになるので、同条は、かかる行為を禁圧するために設けられたものと考えられるのである。
全て一文(途中に”。”がない!)で333文字もあり、かなりややこしいので、図にまとめてみると、こんな感じです。
つまり、「資格も持たず、規律も守らない人(非弁護士)が、金儲けのために他人の法律事務に口を出すようなことを認めると、最終的には法律秩序を害する」ということが理由になっています。
2.「報酬」を得る目的+と「業」としての行為
弁護士法72条が禁じているのは、
- 報酬を得る目的で、
- 法律事務を
- 業とすること
です。
「報酬目的」と「業」の両方の要素をみたす場合が違法となるのであって、どちらかが欠けている行為は弁護士法違反とはなりません。
このことを説明しているのも、先ほどの昭和46年最高裁判決です。
上で引用した部分に続いて、次のように述べています。
右のような弊害の防止のためには、私利をはかつてみだりに他人の法律事件に介入することを反復するような行為を取り締まれば足りるのであつて、同条は、たまたま、縁故者が紛争解決に関与するとか、知人のため好意で弁護士を紹介するとか、社会生活上当然の相互扶助的協力をもつて目すべき行為までも取締りの対象とするものではない。
このような立法趣旨に徴すると、同条本文は、弁護士でない者が、報酬を得る目的で、業として、同条本文所定の法律事務を取り扱いまたはこれらの周旋をすることを禁止する規定であると解するのが相当である。
つまり、72条の条文を以下のように読んでいるわけで、「報酬を得る目的で」と「業とする」は、「法律事務の取り扱い行為」と「周旋(斡旋・紹介のこと)する行為」の両方に掛かります。両方の行為は同じ一つの犯罪行為であるという意味で一罪説と呼ばれています。
かつて判例は、
- 「報酬を得る目的で」は「法律事務の取り扱い行為」にかかり、
- 「業とする」は「周旋する行為」にかかる
としていたことがありました(例えば、昭和39年02月28日)。
これが二罪説という考え方です。
また、「業として」の意味については、最高裁判所が以下のように説明しています。
「業として」というのは、反復的に又は反復の意思をもつて右法律事務の取扱等をし、それが業務性を帯びるにいたつた場合をさすと解すべきである
3.法律事務にあたるか-事件性必要説と不要説
非弁護士行為として禁止されている「法律事務」の範囲を巡って、事件性(紛争性)のあるものに限られるか、それとも法律事務一般が禁止されているのか、という議論があります。
いわゆる事件性に関する必要説と不要説です。
| 事件性必要説 | 弁護士法が禁止しているのは、事件性(紛争性)のある法律事務である。 弁護士でない者が紛争性のない法律事務を扱っても、弁護士法に違反しない。 |
| 事件性不要説 | 弁護士法が禁止しているのは、事件性(紛争性)の有無にかかわらずすべての法律事務である。 紛争性がなくても弁護士でない者が法律事務を扱うことは、弁護士法に違反する。 |
ネットなどで目立つのは行政書士の先生方の意見ですね。
「事件性が厳格に必要」と考えることで、行政書士の仕事の範囲は拡張されるので、必要説に立つ方が多いようです。
逆に弁護士さんサイドからすれば、事件性不要で弁護士の業務範囲が確保される方が望ましいことになるのでしょうか。
というような業界同士の問題を含み、私としてはどちらにも大変にお世話になっておりますので…
以下は他のサイトでまとめていただくということで…歯切れ悪く終わります。
■議論がよくまとまっているサイト
【工業所有権審議会】弁護士法72条に関する学説・裁判例・立法例
弁護士 - Wikipedia
■参考になったサイト
行政書士業務根拠先例
トラブル解決専門の行政書士ブログ: 同じ穴のムジナ
juris 行政書士制度を考える
Yahoo!ブログ - 南の島の戦う市議会議員、元行政書士
■今回の事件では
1.「弁護士でない者」か
逮捕された人たちは、「建設会社の社長」などであり、弁護士資格を持っていないことは明らかです。
2.「報酬を得る目的」があるか
数十億円の報酬を受け取ったというのですし、当然その報酬が目的で立退き交渉をしたのでしょうから、「報酬を得る目的」を認めることができます。
3.「法律事務を取り扱」っているか
事件性を必要とする立場から見ても、これを不要と考えても、立退き交渉は法律事務にあたることになるでしょう。
今回の立退き交渉は、賃貸借契約を締結し、建物を利用している賃借人に対して、本来の契約期間よりも早期に契約を解約し、建物を明渡すことを求めるものです。
立退き料の提供などにより、なかには円満に退去してくれた賃借人もいるでしょう。例えば、
■条件が折り合って円満に転居された方のブログ
紀尾井町TBRビル(尾張徳川家中屋敷跡) - 永田町ではたらく社長のブログ UCF 躍進の年
しかし、中には「立ち退きたくない」という方も当然いらっしゃったわけで、この場合、立ち退きたくないという賃借人と出て行ってくれという賃貸人との利害は当然に相反し、紛争・事件といえるケースになります。
したがって、立退き交渉をする行為は弁護士法が禁止する「法律事務」にあたります。
※全員が全員、「立退き?あ、いいですよ」と言ってくれて、あとは条件をまとめた契約書を作るだけでした、というのならば、考え方によって結論に差が出る可能性があります。
- 事件性必要説からすれば、「紛争がなく、合意したことを契約書にしただけなのだから、弁護士じゃなくてもできる」ということになるでしょう。
- 逆に、事件性不要説を広く考える立場からすれば、「契約書を作ること自体が『法律事務』にあたるから弁護士にしかできない」という結論もありえます。
4.「業とする」といえるか
スルガ社からだけでも都内で5件の地上げの委託を受けているということです。
「反復的に」行っていて、「業務性を帯び」ているので、「業」としていることになります。
■頼んだほうも犯罪では?
かなり強引な地上げの手法を使い、暴力団との関係もあるような、そんな会社に地上げを依頼した方は犯罪にならないのでしょうか?
弁護士法違反の行為をするようにそそのかしたり(「「教唆:きょうさ」といいます)、犯罪行為をヘルプした(「幇助:ほうじょ」といいます)ということにはならないのでしょうか?
当然に沸いてくる疑問です。
しかし、これについても最高裁判所の判例があり、
「非弁護士行為を依頼した側は犯罪にならない」
とされています。
それは以下のような理屈に基づいています。
- 非弁護士行為をした者には当然依頼者が存在するはずである。
- それなのに弁護士法には依頼者を処罰する規定がない。
- これは「依頼者は処罰しない」という意図である。
- したがって、教唆や幇助として処罰することはできない。
弁護士法72条は、弁護士でない者が、報酬を得る目的で、一般の法律事件に関して法律事務を取り扱うことを禁止し、これに違反した者を、同法77条によつて処罰することにしているのであるが、同法は、自己の法律事件をみずから取り扱うことまで禁じているものとは解されないから、これは、当然、他人の法律事件を取り扱う場合のことを規定しているものと見るべきであり、同法72条の規定は、法律事件の解決を依頼する者が存在し、この者が、弁護士でない者に報酬を与える行為もしくはこれを与えることを約束する行為を当然予想しているものということができ、この他人の関与行為なくしては、同罪は成立し得ないものと解すべきである。ところが、同法は、右のように報酬を与える等の行為をした者について、これを処罰する趣旨の規定をおいていないのである。このように、ある犯罪が成立するについて当然予想され、むしろそのために欠くことができない関与行為について、これを処罰する規定がない以上、これを、関与を受けた側の可罰的な行為の教唆もしくは幇助として処罰することは、原則として、法の意図しないところと解すべきである。
そうすると、弁護士でない者に、自己の法律事件の示談解決を依頼し、これに、報酬を与えもしくは与えることを約束した者を、弁護士法72条、77条違反の罪の教唆犯として処罰することはできないものといわなければならない。
刑法の言葉でいう「必要的共犯における対向犯」という問題です。
例としてよく挙げられるのは、わいせつ物販売罪(刑法)。
わいせつな本やDVDを売った側は処罰されますが、買った方についての処罰規定はないため処罰できない、と扱われています。
必要的共犯や対向犯について、もっと勉強したくなってしまった方は以下のページをご覧下さい。
■関連テキスト項目
テキスト第4巻『企業間・社会・環境に関するコンプライアンス』
No.08「反社会的勢力への対処」
■関連する法令
第3条(弁護士の職務)
1 弁護士は、当事者その他関係人の依頼又は官公署の委嘱によつて、訴訟事件、非訟事件及び審査請求、異議申立て、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件に関する行為その他一般の法律事務を行うことを職務とする。
(2項略)
第72条(非弁護士の法律事務の取扱い等の禁止)
弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、異議申立て、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。ただし、この法律又は他の法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。
第77条(非弁護士との提携等の罪)
次の各号のいずれかに該当する者は、2年以下の懲役又は300万円以下の罰金に処する。
(一・二号略)
三 第72条の規定に違反した者
(四号略)
第61条(教唆)
1 人を教唆して犯罪を実行させた者には、正犯の刑を科する。
2 教唆者を教唆した者についても、前項と同様とする。第62条(幇助)
1 正犯を幇助した者は、従犯とする。
2 従犯を教唆した者には、従犯の刑を科する。
第175条(わいせつ物頒布等)
わいせつな文書、図画その他の物を頒布し、販売し、又は公然と陳列した者は、2年以下の懲役又は250万円以下の罰金若しくは科料に処する。販売の目的でこれらの物を所持した者も、同様とする。
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ピンバック by ニュースで学ぶコンプライアンス » 第4巻 企業間・社会・環境に関するコンプライアンス — 2008/3/26 @ 18:53