インサイダー取引-NHKのケース
■ニュースの概要
NHKの報道局記者など3人がインサイダー取引の疑いで証券取引等監視委員会の調査を受けた。
07年3月、外食大手ゼンショーが回転ずしチェーンカッパ・クリエイトをグループ化するとのニュースをNHKが独自ニュース(特ダネ)として入手。
記者らは同ニュースの原稿を放送直前に職員専用端末で閲覧し、「カッパ・クリエイト」の株式を購入、翌日売却することで利益を上げたという。
■インサイダー取引とは
0.概要
インサイダー取引とは、以下のような行為をいいます(金融証券取引法166条)。
- 重要事実を知った
- 会社関係者or情報受領者が
- その情報の公開前に
- 株式等の売買を行うこと
以下、それぞれの項目について説明しましょう。
1.重要事実とは(2項)
投資家が投資判断するにあたって重要となる事実をいいます。
具体的には、以下の5つに分類されています。
| 分類 | 内容 | |
| 1 | 決定事実 | 業務執行決定機関の一定事項に関する決定の事実 [例]株式の発行、資本・資本準備金・利益準備金の減少 |
| 2 | 発生事実 | 災害に起因する損害 業務遂行の過程で生じた損害 主要株主の異動 などに関する事実 |
| 3 | 決算変動 | 売上高、経常利益などが直近の予想値と異なるという事実 |
| 4 | 包括条項 | 会社等の運営、業務又は財産に関する重要な事実であって投資者の投資判断に著しい影響を及ぼすもの |
| 5 | 子会社の重要事実 | 子会社に関する1~4の事実 |
2.会社関係者・情報受領者とは
(1)会社関係者とは(1項)
| 分類 | 情報入手の経緯 | |
| 1 | 役員等 (役員、代理人、使用人その他の従業者) |
職務に関し知ったとき |
| 2 | 3%以上の株主 | 帳簿閲覧権の行使に関し知ったとき |
| 3 | 法令に基づく権限を有する者 | 権限の行使に関し知ったとき |
| 4 | 契約締結・交渉をしている者 | 契約締結・交渉・履行の関し知ったとき |
(2)情報受領者とは(3項)
| 分類 | 情報入手の経緯 | |
| 1 | 情報受領者 (第一次受領者) |
会社関係者から情報の伝達を受けた者 |
| 2 | 第二次受領者 | 情報受領者が法人の役員等であり、法人内で職務に関し情報を受領した場合のみインサイダー |
3.重要事実の「公表前」とは(4項)
重要事実が世間に公表されてしまえば、それ以降はもはやインサイダーとはいえません。
ここで「公表」されたとは、以下の場合をいいます。
- 有価証券報告書・半期報告書等に記載されて公開されたとき
- 2以上の報道機関に対し公開されてから12時間が経過したとき
- 取引所のホームページで公開されたとき
[例] 東証 : 適時開示情報閲覧サービス
■今回のケースでは

1.重要事実にあたるか
「ゼンショー」が「カッパ・クリエイト」の株式を取得し、また第三者割当増資を引き受けることで、株式の31.25%を所有する筆頭株主となるという情報は「主要株主の異動」に関する発生事実です。
したがって、重要事実に該当します。
2.会社関係者または情報受領者にあたるか
株式の売買をした記者らが「会社関係者」でないことはいうまでもありません。
また、会社関係者から直接に情報の伝達を受けたのは、取材を担当した記者であり、今回インサイダー取引を行った記者らではありません。
したがって、情報を第一次的に取得したという意味での情報受領者には該当しないことになります。
問題は、インサイダーとして規制を受ける第二次受領者に当たるかどうかです。
条文で具体的にいえば、
- 職務上当該伝達を受けた者が所属する法人の他の役員等であつて、
- その者の職務に関し
- 当該業務等に関する重要事実を知つたもの
という要件をみたすかどうかの問題です。
【要件1】
インサイダー取引をしたとされる記者らが、「情報受領者(取材した記者)の所属する法人(NHK)」の「役員等(役員、代理人、使用人その他の従業者)」であることには疑いありません。
【要件3】
また、社内の情報端末を経由することで、重要事実を知ったことも事実です。
【要件2】
結局、社内の報道端末というネットワークを閲覧して、「特ダネ」を入手する行為が「職務に関」するものといえるかどうか、がポイントとなるでしょう。
この議論に関し、以下のサイトを参照させていただきました。ありがとうございます。
3.「公表前」の取引か
NHKが特ダネとして報じたニュースであり、その放送は15時。
取引所で公開された15時15分より以前の報道です。
したがって、「公表」にあたる事実は全くありません。
「公表」の株式売買と評価することができます。
■関連テキスト項目
テキスト第2巻『従業員・株主に関するコンプライアンス』
No.09「インサイダー取引の規制」

■関連する法令
第166条(会社関係者の禁止行為)
次の各号に掲げる者(以下この条において「会社関係者」という。)であつて、上場会社等に係る業務等に関する重要事実(・・・)を当該各号に定めるところにより知つたものは、当該業務等に関する重要事実の公表がされた後でなければ、当該上場会社等の特定有価証券等に係る売買その他の有償の譲渡若しくは譲受け又はデリバティブ取引(以下この条において「売買等」という。)をしてはならない。・・・
一 当該上場会社等(・・・)の役員(・・・)、代理人、使用人その他の従業者(以下この条及び次条において「役員等」という。) その者の職務に関し知つたとき。
二 当該上場会社等の会社法第433条第1項 に定める権利を有する株主・・・ 当該権利の行使に関し知つたとき。
三 当該上場会社等に対する法令に基づく権限を有する者 当該権限の行使に関し知つたとき。
四 当該上場会社等と契約を締結している者又は締結の交渉をしている者(・・・)であつて、当該上場会社等の役員等以外のもの 当該契約の締結若しくはその交渉又は履行に関し知つたとき。
五 第二号又は前号に掲げる者であつて法人であるものの役員等(・・・) その者の職務に関し知つたとき。
2 前項に規定する業務等に関する重要事実とは、次に掲げる事実(・・・)をいう。
一 当該上場会社等の業務執行を決定する機関が次に掲げる事項を行うことについての決定をしたこと又は当該機関が当該決定(公表がされたものに限る。)に係る事項を行わないことを決定したこと。
イ 会社法第199条第1項に規定する株式会社の発行する株式若しくはその処分する自己株式を引き受ける者(・・・)の募集(・・・)又は同法第238条第1項
に規定する募集新株予約権を引き受ける者の募集
ロ 資本金の額の減少
ハ 資本準備金又は利益準備金の額の減少
ニ 会社法第156条第一項 (・・・)の規定・・・による自己の株式の取得
(ホ~ヨ略)
二 当該上場会社等に次に掲げる事実が発生したこと。
イ 災害に起因する損害又は業務遂行の過程で生じた損害
ロ 主要株主の異動
ハ 特定有価証券又は特定有価証券に係るオプションの上場の廃止又は登録の取消しの原因となる事実
ニ イからハまでに掲げる事実に準ずる事実として政令で定める事実
三 当該上場会社等の売上高、経常利益若しくは純利益(以下この条において「売上高等」という。)・・・について、公表がされた直近の予想値(・・・)に比較して当該上場会社等が新たに算出した予想値又は当事業年度の決算において差異(・・・)が生じたこと。
四 前三号に掲げる事実を除き、当該上場会社等の運営、業務又は財産に関する重要な事実であつて投資者の投資判断に著しい影響を及ぼすもの
(五~八号略)
3 会社関係者(第一項後段に規定する者を含む。以下この項において同じ。)から当該会社関係者が第一項各号に定めるところにより知つた同項に規定する業務等に関する重要事実の伝達を受けた者(・・・)又は職務上当該伝達を受けた者が所属する法人の他の役員等であつて、その者の職務に関し当該業務等に関する重要事実を知つたものは、当該業務等に関する重要事実の公表がされた後でなければ、当該上場会社等の特定有価証券等に係る売買等をしてはならない。
4 第一項、第二項第一号、第三号、第五号及び第七号並びに前項の公表がされたとは、上場会社等に係る第一項に規定する業務等に関する重要事実・・・について、当該上場会社等・・・により多数の者の知り得る状態に置く措置として政令で定める措置がとられたこと又は当該上場会社等・・・が提出した第25条第一項に規定する書類(・・・)にこれらの事項が記載されている場合において、当該書類が同項の規定により公衆の縦覧に供されたことをいう。
(5~6号略)
第175条(会社関係者に対する禁止行為等に違反した者に対する課徴金納付命令)
第166条第1項又は第3項の規定に違反して、自己の計算において同条第1項に規定する売買等をした者があるときは、内閣総理大臣は、次節に定める手続に従い、その者に対し、次の各号に掲げる場合の区分に応じ、当該各号に定める額に相当する額の課徴金を国庫に納付することを命じなければならない。
(以下略)
第197条の2(罰則)
次の各号のいずれかに該当する者は、5年以下の懲役若しくは500万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
(一~十二号略)
十三 第166条第1項若しくは第3項又は第167条第1項若しくは第3項の規定に違反した者
第198条の2(没収・追徴)
1 次に掲げる財産は、没収する。ただし、その取得の状況、損害賠償の履行の状況その他の事情に照らし、当該財産の全部又は一部を没収することが相当でないときは、これを没収しないことができる。
一 第198条第1項第五号若しくは第2項又は第197条の2第十三号の罪の犯罪行為により得た財産
二 前号に掲げる財産の対価として得た財産又は同号に掲げる財産がオプションその他の権利である場合における当該権利の行使により得た財産
2 前項の規定により財産を没収すべき場合において、これを没収することができないときは、その価額を犯人から追徴する。
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トラックバック by 思秋期の雑感 — 2008/1/28 @ 19:21